ロマネスクの果て/済谷川蛍
気にすることがあるだろうかと端正な顔を思い浮かべるが、輪郭がぼんやりと滲み、思い出すことが出来なかった。それにしても自分は何と孤独な男だろう。世の中は、色んな人間がいていいものだ。だから、肩ひじをついて色んな人間をシニカルに眺めている人間が一人ぐらいはいてもいいだろう?
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外出した帰り、繁華街にある商店街の煙草屋にふと立ち寄りマールボロ・アイスブラストを買った。その場で封を切り、店頭の灰皿で喫煙した。6ヶ月の禁煙を破り捨てた瞬間だった。喫煙は男のささやかなリストカットだ。重い、深いため息が胸の底に溜まり、夕暮れが闇夜に染められていくような寂しさがつのるとき、煙草に火を点けて煙を吹
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