ロマネスクの果て/済谷川蛍
 
夢に出てくる彼のことが、どれだけ愛おしくても…。

 *

 ギリギリの単位で卒業することとなった僕には何も優秀な資質は具えられてはいなかったようだった。しかしただ一つ、僕が書き上げた『ロマネスクの果て』という小説だけは、僕の生みだした奇跡の傑作として、また僕が変人であることの代償として、僕の人生の成果の中に歴然と輝いていた。そして僕はこの文章を、ひょっとして僕の大いなる可能性か何かだと信じて大事に保管していた。この小説の完成を想像するとき、僕はほとんど勝利者になったような気分になった。
 何のアプローチも出来ずに疎遠となった野村くんを探して随分とネットを探索した。今ならば、彼ときちんと
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