浮遊霊/ホロウ・シカエルボク
 
ときどき猫がかれを呼びとめる。かれは振り返る。そしてその猫としばらく見つめあう。かれはそれが猫であることを知らない。猫にはかれがどういうものであるのかよく判らない。だからこそ呼びとめてしまう。声は聞こえるみたいだ、でも他には?猫にはそれ以外を確かめる手段は無い。かれのあの見えているのかいないのか判らない独特の目のなかには、親猫に行ってはいけないと釘を刺された地域のような冷たさを感じる。猫はきびすを返してかれから遠ざかっていく。かれはまた向きを戻して路地の先へと歩いて行く。あらゆる街の路地にはかならず、死を担う一角がある。なんらかの理由で生きてる人間が寄りつかなくなった一角が。かれはそんな一角にある
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