浮遊霊/ホロウ・シカエルボク
 
この街では、かれに気付くものはほとんどいない。野良猫と野良犬だけが、かれが一日そこらを歩いていることを知っている。かれはこの街の影のようなものだ。かれは街中の路地をうろつきながら、一日の色が変わるのを楽しむ。通りの先で、頭上の窓で、ごみ捨て場のミルクパンの穴の開いた底で、その日の光が反射するのを楽しむ。とくにその光が自分の目の真ん中をまっすぐにとらえることをかれはもっとも好む。それはかれにある種の解放を連想させる、もちろんかれ自身はそんな風には理解していないけれど。かれは歩きながらさまざまな反射を目に焼き付けてゆく。そこにはかれがそれを見たという事実だけがある。どんな感情もそこには含まれない。とき
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