浮遊霊/ホロウ・シカエルボク
ようなものがどこにうずくまっていたか、あらゆる窓にかけられていた洗濯物はなに色がいちばん多かったか、など、すべて判っている。だが、それがなにを意味しているのかはまるで判らない。ただ地形のように記憶している。かれは一日の色が変わることだけを楽しんで過ごす。明るくなると隙のある店から果物を盗む。よほどの気まぐれが起こらない限りそれがかれの一日の食事になる。だからかれの造作はアイヌの木彫り細工を思わせる鋭角な線ばかりが目立つ。年のころは5、6だろうか、しかし時間の流れからはぐれたようなぽかんとした目つきは、そんな判断を確かなものと落ち着かせてはくれない。ささやかな営みだけが紙芝居のように繰り返されるこの
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