殿岡秀秋小論/葉leaf
 
かった飢えに
  ひび割れてできた胸の隙間へ
  きみの言葉が落ちてしまった
  もともとその空洞を埋めて
  しなやかな胸になるために
  きみといるのではないか
       (「悲しみの小石」)

 殿岡においては、現在と母というものは似た位相にある。現在というものは人間に必然的に与えられる強度のある唯一の実在であり、人間がそれに対して愛情を抱くものである。同じように、殿岡にとって、母というものは彼に必然的に与えられかつ彼にとって唯一の頼れる存在であり、また彼が本能的に愛してやまない存在である。そして、現在というものが過剰であるがゆえに、殿岡が現在を見捨て、また現在が殿岡を見
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