殿岡秀秋小論/葉leaf
を見捨てざるを得なかったのと同様に、殿岡の母は、教育のためかそれとも多忙のためか、殿岡をある程度見捨て、それゆえ殿岡も母を見捨てざるを得なかったのである。「母の愛を求めて/得られなかった飢えに」という詩行に、彼が母親を見捨てていることがうかがわれる。殿岡は現在を愛するが現在が過剰なゆえに現在を見捨てざるを得なかった。同じように、殿岡は母を愛したが、母から十分に愛が返されなかったがゆえに母を見捨てざるを得なかった。愛すると同時に見捨てなければならないという葛藤、これこそが殿岡の「苦悩」ではなかったか。
そしてこの苦悩は単純に「苦しみ悩む」ことではない。殿岡は現在を見捨てながらも記憶の中にその一部
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