蛇音/よーすけ
かべて栗須に「お前も殴れ」と言った。栗須は露骨にいやな表情をしたが、特に何を言い返すでもなく、言われた通り同い年ぐらいの生徒の腹を殴った。その生徒は瑞嶋に後ろから羽交い絞めにされ涙で顔をぐしょぐしょに濡らしていた。悲痛な叫びはゲームセンターの電子音の束にいとも簡単にかき消された。栗須は殴った瞬間、少年の腹の皮膚がシャツ越しに自分の拳にへばりつくような感触がした。その感触は今でもときどき蘇り寒気がする。無抵抗の少年を殴ったのはそれが初めてだった。
自転車を漕いで家へ帰っていると生温い向かい風が強く吹いた。半袖のシャツと短パンという格好でも汗が滲むような季節になっていた。栗須はサドルから腰を浮かせ、
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