蛇音/よーすけ
栗須は驚いた表情で母を見た。知らなかったのは自分だけだったのだ。
「何でそんなこと訊くの」母の質問に息子は「べつに」と答えテレビに夢中なふりをした。母はそんな彼をいくらか怪訝そうに見た。
栗須は夕飯を食べ終わると、まだ疲れの残る体を自分の部屋のベッドに投げ出した。眠りはやってきそうにないが、体全体が干したての布団の中にめり込んでいくような気がした。栗須は体を横にして網戸から来る風を正面に受けた。暑さをしのぐには不十分な弱々しい風だった。頬から滲む汗が布団に染み込んでいくのが分かった。
栗須は目を閉じ今日出会った集落の少年の事を考えた。
――いま山に住んでいる人達は俺たちの親かその上の世
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)