蛇音/よーすけ
、振り返って栗須と向き合った。栗須もペダルから足を下ろした。少年は褐色の頬に涙を流していた。まるで辱めを受けたかのように悔しさと苦しさを滲ませ汗と溶けあっているように見えた。栗須は思わずたじろいだ。
「街の奴らのせいで山が切られてこっちにはなんもなくなった。あいつらのもん盗んで何が悪いんな!」
少年は麻袋の中から人参を一本取り出し、栗須に投げつけた。その人参は栗須の顔の方に飛び、顔を庇った手に当たった。「この野郎」と栗須が叫び人参を投げ返そうとしたときには、少年は真っ黒に汚れた足の裏を見せて山の方に走り去っていた。栗須は熱さと疲労で立ちくらみのようなものが起こるのを感じた。そしてまた自転車に
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