レンズ/草野春心
いたアパートの
硬いベッドの上で
本を読む君を写したものがある
それは一際
眩しい光のなかで
焼きつけられたもの
本のページに刻まれた文字は
一つも見えない
それでも君の横顔は
幸福のようなものを宿している
そう見える
確かその本は僕が
君の誕生日に贈ったやつだ
外国が舞台の
外国の小説
透き通るような美しい朝
男と女が食卓で会話をするところから
物語はその幕を開ける
老いた夫はラジオをつけたり
新聞を広げたりと忙しなく
痩せた女がシリアルをボウルに開け
とぷとぷと牛乳を注
[次のページ]
戻る 編 削 Point(21)