レンズ/草野春心
 


  まるでこの世の始まりから
  僕を待っていたように
  茶色い床に君の
  十二枚の写真が散らばっている
  秋の風が窓の外で
  穏やかにはためく午後
  僕はグラスに冷たい水を注ぎ
  写真に映った、十二人の
  君の前に胡坐をかいて座った



  なぜかは覚えていないけれど
  君はいつも、横顔で映っていた
  少し伏せた二重の眼を
  レンズから背け
  何処か違う場所を探して
  柔らかな頬を僕の方へ向けていた
  十二枚の写真の
  十二人の君の頬
  それは大小様々の
  模造品の果物のように
  静かに光を蓄える
  そこ
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