煤けた夜/ホロウ・シカエルボク
せない男だった、年老いた男だった、それは店主と客というそれだけの間柄だったというそういうことかもしれない、だけどとにかく不思議なくらい実体を感じさせない男だった、うっかりするとホログラムの様なものだと思い込んでしまうような、そんなぼんやりとした空気をまとっていた、だけど死んだ、やっぱり死んだ、やっぱり死ぬんだ、生きているのかどうか判らないような人間だって、ちゃんと、死ぬ時が来たら…なんの脈絡もなく街灯にもたれてその日腹に入れたものをすべて吐いた…飲み過ぎたわけじゃない、酒なんか一滴も入れていない…ただ、胃腸が時々おかしくなるんだ、まるでシステムを失効したみたいに…どうして存在しているのか判らなくな
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