歌謡曲日和 -あさき 赤い鈴-/只野亜峰
 
しんでいるつもりなので、彼の葛藤など知るわけもないわけです。だから自分に向けられる笑顔に安堵してどんどん先へと行ってしまう。もう追いかける気力を失ってしまった彼はそこで心底萎えてしまったわけですね。彼の目には彼女の背中に自分を取って食おうとする化物が見えていたかもしれませんし、一人で気ままに生きていく人生というのがいくらかマシに見えたのかもしれません。彼の恋は一度ここで大きな転換を迎えます。俗に言うところの「距離を取る」という奴で、自然消滅一歩手前の破局リーチといってもいい感じの試みだったのですが、彼にとってはクールタイムでもあり賭けでもあったわけです。そこで彼女が自分を追いかけてきたなら万々歳。
[次のページ]
戻る   Point(1)