河口の地図 2011/たま
 
男と
市堀川の橋の上にいた
きっと、迷子になったのだとおもった
こわばった男の横顔は街をみつめたまま
いまもふりかえらない

夕暮れの路地に
焚き木のけむりが漂うころ
祖母の家に帰りついたのだろう
母の背にしがみついて
どんなに幸せであったか
その日の母はうすいセーターを着ていて
それはみどり色であったはずだけど
茜色の空の下を走る電車の色は思いだせない
貝柄町の路地に立つ
母の記憶はたったひとつそれだけ
思いだせない電車の色は
いつからか
セーターとおなじ色をしている


父の商売はうまく軌道にのった
わたしも小学生になって
父や母といっしょに暮らす
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