河口の地図 2011/たま
 
らすことになった
間借りしていた築地橋のたもとを離れて
西浜に三百坪の工場と家を構えた翌年のこと
父は夕食の居間でとつぜん倒れ伏したまま
三十四歳の若さで逝った
そうして
祖父も、祖母も 
父を追うようにして逝った

のこされた母は、姉ふたりと八歳のわたしをつれて
土手の上の電車に乗った
もう、だれもいなくなった祖母の家に見送られて
紀ノ川の長い鉄橋を渉った
北の空の下には
もうひとりの祖母がいて
わたしはまた
母や姉たちと離れて暮らすことになった


6)

道はまっすぐ
ちいさなトンネルへとつづく
記憶は積みかさなって歪んでいるけど
大気のように
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