河口の地図 2011/たま
うに透明だから
いつも見えているのは一番とおい風景だ
わたしはいま、一番とおいところに立っている
およそ四十年の月日は、浅い川のようにせわしく
川底をさらっては足元を流れた
ちいさなトンネルに入ると
晩夏の陽射しが跳ねるアスファルトの道が途切れた
かたくて湿っぽい地肌の道は
あのころとまったくかわらない
手が届きそうなほどにひくい天井だった
何歩あるいただろうか
すっかり見慣れたはずの記憶の底にでた
ほそい路地に沿って無意味な空き地と
かたむいた廃屋にまじって
まだ生きている人たちがいる
ここはかわらへんよ、と
路地のおばさん
そうだろうか
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