河口の地図 2011/たま
 

かわらないのは地肌だけ 
もう何も、のこってはいない

わたしが愛した河口の街は
貧しい人びとが
鉄を灼き
鉄を曲げて、たくましく生きる街
かわろうともせずに朽ち果ててゆく
そんな愚かな街ではなかったはず

何もかもがとおい風景だと知った
こみ上げてくる切ない怒りは
みちくさをしたあとの後悔とおなじもの
夜店はもうおわったのだ

北の空から電車がやってくる
オシロイバナは、あの日とおなじ土手に咲いていた
五歳のわたしが手を伸ばし
晩夏の陽射しを摘んでいる
この陽射しが西にかたむくころ
どこからともなく
紙芝居のおっちゃんが自転車に乗って
やってくるかもしれない

一切れのりんごは
まだ、わたしの手のなかにあって

甘い香りがする












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