河口の地図 2011/たま
 
たか
たぶんそんな日がいくつもあって
やがて
わたしは祖母の家を巣立っていった


5)   

丸くてやわらかい
母の背は
いつもしあわせの一等席だった

茜色の空の下をはしる電車は
土手の上の鉄路を
北の空に向かう
重なってゆれる車窓の人たちは
どんな理由があって
あのさみしい空の下に帰ってゆくのだろうか
きっと辛い思いをしているにちがいない
なぜかわたしは
母の背でそんなことをおもった

灰色の空は冬だった
陽はまだ高い時間であったはずなのに
街はひくく 
とおくで物悲しい響きさえした
わたしは自転車の荷台にすわって
途方にくれる若い男と
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