河口の地図 2011/たま
 
昭和三十年代の紀ノ川河口付近は
どこも材木の山であった
市堀川や築地川が水路のように交差した
そのせまい川面は
筏が埋めつくす貯木場となって
川の両岸には多くの製材所がならんだ
そんな築地橋のたもとで
父は建築資材となる鉄骨を組んで商売をしていた

河口の対岸には製鉄所があって
高炉は、くる日もくる日も 
この街の夜空をまっ赤にこがした

これからは鉄の時代や

そう叫んだかもしれない父は
からだも意思も、鉄のような男だったのに
わたしはひ弱な鍛冶屋の息子だった

黒い単車の
父の背にしがみついて
貝柄町のちいさなトンネルをぬけたのは
いつの日であったか
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