河口の地図 2011/たま
 
育てるために
好きな酒と煙草を得るために
どこでどんな仕事をして生きたのだろうか
きっと、あのボラ釣りが
さいごの仕事であったはず

自転車の荷台にくくりつけた木箱の背に
大きくつんぼと横書きして
とおい記憶の街を駈けぬけた祖父は
もう、ふりかえらない


4)   

父の笑顔をたったひとつおぼえている
目じりをすこしさげた 
面長の父が祖母の家のうす暗い土間にたって
わたしを呼ぶ

たきじ、単車にのってかえるかぁ
うちにかえったら
ええおもちゃ買うてきて、おいちゃあるぞ

父の声はきこえない
だけどその笑顔はいまも、そう語りかけるのだ

昭和
[次のページ]
戻る   Point(28)