河口の地図 2011/たま
 
夕日に染まるころ
男たちは背をまるめて無口な街に消えた

祖父はボラを売って
たばこ銭を稼いでいたようだ
売れ残った日は夕飯のおかずになる
大きなボラにはヘソがあって
塩焼きにすると
こりこりとしてとても旨いものだったが
祖母や母にとっては
ありがたくない魚だったらしい

中庭に腰かけて機嫌のよい祖父は
友とふたり遊ぶわたしに
頭でカチ割れよ、といって
十円玉をひとつくれた
小さな駄菓子屋へ飛んでいったふたりは
あめ玉を買って五円ずつなかよくわけた

祖父の働く姿はいちどもみなかった
仕事をもとめて
本宮の山深い里を捨てたという
幼い父や、叔父たちを育て
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