河口の地図 2011/たま
おなじ夢をみていた
3)
祖父はとても耳のとおい人だった
自転車の荷台にくくりつけた大きな木箱に
粗末な釣り道具を投げこんで
雨さえ降らなければ、荒浜までボラを釣りにいく
荒浜の海はいつも
紀淡海峡を越えてきた北西の風がつよく
紀ノ川を流れ下った木片や雑多なごみが
砂浜に打ちあげられ
さらに、隣接する石鹸工場から流れてきた汚水など
けっして、きれいな海とはいえなかった
松林の裾からまっすぐ海に向かって
伸びる波止があった
日焼けした男たちがにぎやかに群れて
丸太ん棒のようなボラを釣りあげていた
波止の先の赤灯台が
すっかり夕日
[次のページ]
戻る 編 削 Point(28)