堕胎/草野春心
 
った顎で、僕の
  右手に持ったビニール袋を指す
  返して、
  彼女は繰り返す
  それはあなたのコンドームじゃないわ
  私のコンドームよ
  思わず僕が袋を隠そうとすると
  彼女は鏡の中から細い腕を突き出して
  袋をひったくると
  瞬時に姿を消してしまう
  僕は呆気にとられ
  痺れのようなものの残る右手を
  しばし黙って見下ろしている



  あれは本当に
  あの女のコンドームだったのか
  幾つかのビルを通り過ぎ
  公園のあるマンションを過ぎ
  一度だけ道路を曲がり
  僕は思う
  あれは誰のコンドームだったのか
  買
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