堕胎/草野春心
 
 ただ冷たい視線だけが、僕の背中に
  ぴったりと粘着している



  袋を持ってコンビニを出ると
  薄暗い冬の朝が
  僕の肌をちくちく刺す
  空は低く硬く、雲は動きもせず
  ただ灰色に折り重なっている
  帰り路の途中
  写真屋や焼肉店の入った
  三階建てのビルがたっている、その
  ガラス扉を横目に見ると
  そこに映ったのは僕ではなく
  高そうなスーツを着た、髪の長い
  真っ赤な口紅を塗った女
  三十歳前後に見えたけれど、彼女が
  さっきの少女だということは
  すぐにわかった
  返して、と
  彼女は言う
  そして尖った
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