根津界隈/salco
 
寺院が所有している。寺だけのブロックはもう
谷中。一層閑寂として、どこも出入り自由だから散策にはもってこいだ。
 そんな一角を通った時、感応寺という妙な名前に惹かれて門脇のプレー
トを読むと、澁江抽齊の菩提寺だった。巨石をスライスしたような墓碑に
は、あの鷗外が同じ場所に立って書き写したのかと感激したものだ。
 子孫に手紙をしたため面会を求めてまで、無名医の一挙手一投足を知ろ
うとした情熱と執念については窺うべくもないが、決して交差し得ない時
空を、「ありき」と実感できるのが嬉しかった。
 その仲介役はたいてい人ではなく、こうして遺物だ。しかも人跡の仮託
でしかない
[次のページ]
戻る   Point(3)