三月のエスカレーター/草野春心
三月の
まだ、少し肌寒い日
人々のざわめきが
どこか他人事のように響く朝
駅へと続く道を僕が
いつも通りに歩いていると
巨大なエスカレーターが
青空に向かってまっすぐ伸びていた
何の変哲も無いやつだ
階段の部分は、黒い長方形が重なり
両端は、警告を示すように黄色く
手すりは深い緑色
何の変哲も無いやつ
変哲があるとすればそれが
天を突くほどに
おそろしく巨大で、長いということ
そして乗っている人間は誰一人いない
目視できる範囲で言えば
僕は
最初の一段に
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)