聖域/草野春心
作業の間君は
笑みさえ浮かべている
息苦しさと痛みで
目には涙が溜まっているのに
でも僕は
笑うことができない
馬鹿げているとは思えない
君の口の中に
一つずつ文字を刻んでゆくたび
その作業は何か
神聖で
名誉あるものに思えてくる
僕の額にうっすらと汗がにじむ
両手についた血液や涎を
時々拭きたくなるのだけれど
この作業は
けして中断してはいけない
そんな気がする
君の瞳は
優しげに微笑んでいる
君の聖域の上に
僕が何を書いているのか
君
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