雨のむこうに/さすらいのまーつん
雨ってやつは
悲しくもない 涙みたいだ
くたびれた革靴の つま先から
じわじわと 染み込んでくる
晩秋の雫
子供の頃は 雨に酔った
そのどこか 厳とした冷たさに
突然景色がうつむいて
考え込んでしまったかのような 陰りに
幼かった自分は 見とれたものだった
暗い雨空に向かって 巨大な墓標のようにそそり立つ
団地の棟々に
模造レンガの 外壁に並んだ
琥珀色に灯る バスルームの窓
それがバルト海を渡る 連絡船の明かりのように
点々と 続いていく
厳しい冷気と ガラスの向こうで パチパチと爆ぜる
見知らぬ人々の 日々の営み
そのコントラスト
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