近所での小さな争い/殿岡秀秋
 
、外をみる。男はまだ出てきていない。二階のベランダから男の家をみると、玄関はまだ開いていない。妻がベッドで動く気配がした。ぼくはそこにいってマッサージをする。整体師に教わったとおりに妻の太腿を踏む。
それからベランダに戻ると、男の家の玄関があいている。ぼくはいそいで黒い上下のトレーナーに着替える。頚に手ぬぐいをまいて、運動靴をはいて表へ出る。
男は玄関にでて庭にある盆栽の葉をつまんでいる。
「おはよう」
ぼくは低い声で言った。男がふりむいた
「ちょっとこっちへ来てくれませんか」
ぼくはあくまで穏やかに言った。男は少し驚いたようだが、すぐに玄関にはいって、出勤用の黒い鞄を肩にさげてでてき
[次のページ]
戻る   Point(4)