前奏曲/メチターチェリ
まれ、正門の一辺には桜の木が植えられていた
花はまだ頑なに蕾のまま、来るべき本当の春を待ち構えている
さながら、早すぎることも遅すぎることも許されず、咲くべき機を逸しまいと絶えず緊張しているかのように
案内をもう一度確かめてから、背が高く大仰な校門をくぐった
この日ぼくは、大学生協が紹介する物件を借りるために京都に来ていた
休日のキャンパスは広く清潔で、人の姿はない
いくつかの瀟洒な棟が雨のなかで眠っていた
右手には人工的な池があり、左手には芝生の禿げた中庭と大型スクリーンがあった
しつらえられた緑があり、講堂らしき建物があり、十メートル置きにベンチが置いてあった
公立校にし
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