聖域なき未来に少女がみた世界/済谷川蛍
 
何年かかるんだ? こんな状態が、いつまで続くんだ?」
 彼の車のトランクの奥のカギ付きの工具箱の中にはロープやサバイバルナイフ、ガムテープや練炭が隠されており、心中の用意がされている。彼はその工具箱を脳裏に浮かべて目玉を黒く染め、彼の同僚やかつての妻、娘も聞いたことがない太い声で呟いた。
 「俺が修羅になるのを望んでるのか、サチコ」

 挨拶を交わす相手がいない。即ち少女は孤立していた。自ら進んで選んだ教室の斜め隅の席で本を読んでいる。その席は同級生の会話や様子を観察するのにも適していた。生徒たちの取るに足らない自慢話に「くだらない。お前らの自慢話には華がねーんだよ」とほくそ笑んだ。
 
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