聖域なき未来に少女がみた世界/済谷川蛍
 
万円だった。胸をざわつかせる不快なエンジン音が近づいてきて、アイドリング状態のあと鳴り止んだ。ボンが嬉しそうに玄関へ走る。カギが開き、玄関の扉が開く。父親が一階にいるというだけで彼女は神経質な嫌悪感に苛まれた。

 次の日、机がだいぶ後ろのほうへ移動されていた。彼女は机を動かさず、そのままの状態で過ごした。そのことを唯一指摘したのは国語教師の木戸だった。彼は教科書を朗読しながら席と席の間を歩いて回り彼女の席のところへ来ると足を止め「席が離れているぞ」と言った。複数の生徒が笑い声をあげた。教師はそちらを振り返って「おかしいか?」と言った。授業が終わると彼女のところへ近づいてきてスケジュール帳を取
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