聖域なき未来に少女がみた世界/済谷川蛍
 
男と出来てるって男子が言ってたよー」
 女子たちに合わせて彼女も笑った。そうして今日もこのちょっとした危機以外は万事無意味に時間は過ぎた。
 放課後に成瀬が謝りながら話しかけてきた。手にわざわざ本を持っていてそれを話題にするつもりなのだろう。彼女は冷淡に言った。
 「近づかないでくれる?」
 「えっ…」
 「わたしまでイジメられちゃうじゃん」
 「あ…」
 「辛かったら自殺すれば?」
 少女の相手のことを一切理解しようとしない無謀な振る舞いは少年に画期的な変化を与えた。イジメを行っていた同級生たちでさえ働かせることが出来なかった優しい少年に眠る暴力装置を発動させてしまったのだ。

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