うつろいだ夜に/ehanov
 
坂を登ると、片足が痛かった。左足のくるぶし辺りだった。立ち止まっている間ではなく、踏みこむときにそれはあった。波のさざめきのようにそれは騒がしかったので、ストレッチでなくそうとしていたら、電車が過ぎた。ガードレールにそって、少女が自転車を転がしていた。夜だった。月はでていた。発光して、唇は渇いた。



誰もいなかった。熱海を越えたあたりで月はでていた。真鶴には黒い人がたくさんいた。それぞれ待ち人で、各々携帯をかけていた。彼らを置いてドアが閉まると、誰もいない車内は薄暗かった。つり革は虹色だったが、薄暗かった。腰が震えた。携帯が爆音を奏でたとき、車掌が隅を通りすぎた。あまりにも無言だった。
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