友引のひと/恋月 ぴの
らしき喪服姿は見当たらず
このあたりは森深い丘陵地帯なのか
それでいて意図した静けさに支配されているのは隠しようも無く
※
恥ずかしいぐらい質素だった母の葬儀
よくあることらしく嫌な顔ひとつしない係りのひとに尋ねれば
あれは行旅死亡人を荼毘に付しているとのこと
運転手は棺を館内へ運び終えると
駐車場で暫しの時間待ちでもするようだった
打ち合わせの電話でもかかってきたのか
白い半そでシャツの運転手が忙しく書類をめくっていた
配車してくれたタクシーはどうしたのだろう
何処かで道に迷っているのだろうか
生きる目的を見失ったまま
今頃三途の川
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