梅田周辺/メチターチェリ
たぼくらは、一つの傘に身を寄せて信号を待っていた。
「昨日の夜、会社帰りに下見に来たの」紀子が言った。「あそこの空中庭園寄って景色観てた」
「怖くなかった?」紀子は高所恐怖症である。
「うん。でも綺麗だったよ」
「雨の都会には独特の気配がある」寂しいような、落ち着くような。景色は静かで、活動の光が健気だけど、どこか心をざわつかせる。
「味があるよね」
「味というか、感応するんだ。その気配に。気配自体が複雑な思いを抱えてる気がする。なんというか、言葉が足りないのかもしれないけど……」
「分かると思う」紀子が答えた。「でも明日は晴れてもらう! 洗濯ができない!」
「うん」
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