中島みゆきが思い出せない/blue
るんだね ―
と いつもの口調で言った。
― ヨシダさんが嫌いな中島みゆきの歌にあるんだよ―
と 今度は私が少し乱暴に言った。
ヨシダさんが煙草に火をつけようとしているけど、
風が強くてなかなかつかない。
私が左手をかざして、ようやく小さな火が
煙草の先に浮かんだ。
そのとき初めて、今日はヨシダさんが
結婚指輪をしていないことに気づいた。
交差点でさっきのベンツが信号待ちをしていた。
後部座席の窓が半分ほど開いていて、そこから女が見えた。
女が空を見上げていたので、私もつられて空を見た。
恐ろしく大きな月が浮かんでいた。
女の顔は月と同じくらい白かった。
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