遺書にはならない足跡/セグメント
 
たしはいつ出て来られるか分からない、せっかく出て来られたのだからあたしと話をしてほしい。
 これに対し、恋人は「私」を返せと言った。すると、
 ――そうやって、あの子ばっかりずるい。あの子よりもあたしの方が力が強くて、もしくは他の子の方が力が強くて、「私」ちゃんなんかもう出て来られないかもしれないよ。
 と、「彼女」は返した。私も覚えている。
 まるで別人のように振る舞った私、それを多少なりとも自覚しており、しかし、それは私ではないと思っている自分自身、その間の記憶が曖昧であること、第三者が私を見て別人のようだと感じたこと、「私」と「彼女」といった風に私の中で人物像が分かれていること。これ
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