遺書にはならない足跡/セグメント
名前じゃないんだね、と。
その時の私はとにかく別人の如くで、また妖艶であったという。普段の私からは妖艶など、想像も付かない。本人にも想像が付かない自分自身の姿を軽々と見せたのが「彼女」だ。
「彼女」は恋人のことを好きか嫌いか、はっきりとはしなかったそうだ。絶望に落とすなどと言う反面、恋人のことを好いている素振りも見せたという。この辺りは特に良く覚えていない。
しばらく「彼女」は話し続けた。絶望のくだりや、ずっと恋人とこうして話をしたかったこと、「私」ばかり恋人といてずるいということ。恋人からの質問にも答えたらしい。
断片的な記憶の一部として、以下のような発言がある。
――あたし
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