遺書にはならない足跡/セグメント
 
急にその恋人が豹変し、挙げ句、絶望に叩き落とす為に準備をしてきた告げるのだから。
 恋人が動揺していたことは私にも分かった。前述の通り、どこか小さな部屋の中で、薄い意識を持ち、私はその光景を見ていた。恋人は目を見開き、「お前は誰だ」と言った。「彼女」は、「あたしはあたしだよ」と言った。その一人称と、話し方、態度、全てに恋人は強い違和感を持ったらしい。
 恥ずかしい話だが、私は恋人の前では一人称が自分の下の名前になることがとても多い。あとは、「私」と「あたし」が時々、混じるくらいだ。だから、「彼女」が「あたし」と自らを呼んだところでおかしくはないのだが、恋人は「あたし?」と聞き返した。自分の名前
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