遺書にはならない足跡/セグメント
 
喩えるならひどく小さな部屋の中で、非常に薄くなった水のような気配を、意識を持って、「彼女」を見ていたように思う。そして、そんなひどいことを言うのはやめてくれと叫んでいた気がする。この時のことは本当に曖昧な記憶となってしまっているので、記憶の断片から類推するしかないのだが。

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 乗り移られている――と仮定する――間、「彼女」は初めて恋人に会ったという旨を告げた。ずっと会いたかった、ずっとこうして話がしたかったと。「私」ばかり恋人と会って話してずるい、と。
 恋人は明らかに動揺していた。当然だろう。半年以上もの間、恋人同士として深刻な喧嘩もなく互いを想って過ごして来たというのに、急に
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