遺書にはならない足跡/セグメント
 
と。上階の住人がいなくなればいいと、もう幾度、思ったことだろう。あの日、私は自分が消えてなくなるしかないと思った。十日分の薬で死ぬことが出来るとは思わなかったが、何も考えたくなかったし、考えてはならないと思った。気が付くと手首に包丁を何度も何度も強く当てていた。だが、引く勇気はなく、規定の服用量を超えてのコントミンの服用に私の行動は留まった。本当に死にたいのならば包丁を胸に突き立てればいいと思った。だが、出来なかった。痛みや死そのものに対する恐怖もあっただろうが、おそらく、私は本当には死にたくないのだ。
 引っ越したい。書きたい小説がある。書きたい台本がある。行きたい水族館や動物園がある。観たい
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