遠近感/智鶴
 
どれだけ昔のことかは覚えていない
数か月前か、数年前か、数十年前か
或いは全てが幻だったのか

心地よい眠気を振り払うと
そこは真っ白な世界で
まだ何も許されていないことに
僕達は柔らかく守られていた
軽い気持ちで吐いた溜息は
思いもよらない処で破裂して
セピア色の写真に白く引っかき傷のように残った

退屈だった
今よりは少しは世界が美しく見えていたのに
瞬間を感じ取ることを苦手としていたから
永遠に抜け出せないかもしれない不安に怯えながら
誰かの真似をすることばかりを学んでいた
今も誰かの美しい世界に憧れて
知らない内に、恰も自分のものになったかのように

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