履歴書/佐々宝砂
 

アダムは半分だけの世界に一生懸命しがみつき
カインが荒らした畑を耕しこつこつと家をつくった
私はその畑と家を心から愛した
私にはアダムが必要だった

そういうわけで私はアダムといて満足だったが
イブでいるのは退屈だった
私はリリスだったこともあるんだぞと息巻いてみたが
杉の梢にさむい風が吹くだけだった
イブかリリスかマリアか
そもそもその三つしか選択肢がないなんてあんまりだ
私はやっぱりイブやマリアやリリスでありうるはずがなく
要するに私は私だと再び息巻いたら
アダムが怒って出ていった

もしかしたらアダムはアダムじゃなかったのかもしれなかった

ひとりになっ
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