履歴書/佐々宝砂
 


カインは私を必要としていた
それはそれで悪い気分じゃなかったが
カインと一緒にいるのは疲れた
というよりもリリスでいるのは疲れた
化粧品代と衣装代がかかりすぎた
それで私はカインから離れようときめた

あいかわらず世界の半分は失われたままだったが
まだ残っている半分に目をやると
そこにアダムがいた
いつからいたのと訊ねたら
もう十年もまえからいるというので
記憶を探ったがどうしても思い出せなかった

アダムには母親がいなかったので
私はマリアになってみようとしたが
端的に言って無理だった
しょうがないからイブになってみた
世界はやっぱり半分しかなくて

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