【批評祭遅刻作品】自分の体臭で書かれた詩/るるりら
 
それは多くの酷な話が語り継がれてきました。 


呼びかけ
峠 三吉 作




いまからでもおそくはない
あなたのほんとうの力をふるい起こすのは おそくはない
あの日、網膜を灼く閃光につらぬかれた心の傷手から
したたりやまぬ涙をあなたがもつなら
いまもその裂目から、どくどくと戦争を呪う血膿をしたたらせる
ひろしまの体臭をあなたがもつなら

焔の迫ったおも屋の下から
両手を出してもがく妹を捨て
焦げた衣服のきれはしで恥部をおおうこともなく
赤むけの両腕をむねにたらし
火をふくんだ裸足でよろよろと
照り返す瓦礫の沙漠を
なぐさめられること
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