饗宴のひと/恋月 ぴの
 
タッパのある君ならば
その刹那、何らかの素早い動作で此方側に残ることができただろうに

両手のひらをドアノブの鈍い輝きに捧げてみる

同じホテルの同じ階の部屋
君が自らの命を絶った部屋に泊まることは叶わなかったけど

それは古代太陽神を具現しているようで

生贄となるべき一頭の山羊

自らの行く末に気付いてはいても手綱を引かれれば従わざるを得ず

それがわたし達の在り様に思えた




空のバスタブに左手首を浸ける

もちろん剃刀とかで手首を切ってしまったわけではないし
わたしも生贄の山羊なのは確かなことだけど
自らの命を差し出すに暫しの猶予は疑いよ
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