停電の夜に/あおば
気ストーブなども製造販売され、あっという間に未曾有の電力不足となったという。定格100ボルトの電圧が、夕餉時には50ボルト程度まで下がり、電灯は暗く、蛍光灯は光を失い(蛍光灯は家庭には無かったので、想像するだけですがと古老は左手で頭を掻く)ラジオも音を止め、すいとんを啜る貧しい食卓の主なる話題も自然と暗く乏しくなって、食料配給の遅配への不満と不安、配給物資の闇市への横流し疑惑についてなど、清貧を楽しむ余裕など少しもありませんでした。そのうえに明日は早起きして、殺人的な満員列車に乗り込んで買い出しに行かなくてはなりません。一張羅の背広を売って継ぎの当たった国民服を着続けるのは嫌だと思ってもお米を食べ
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