黄金の牛(更新中)/みつべえ
その夜、ジェルは人知れず部落を出ました。美しい面影だけを女たちの思い出に残し、誰も自分の死体を発見できない樹海ふかく分け入っていきました。投身自殺する場所をもとめてのことです。というのは、タイラー族には古くから、高いところから落ちて死ぬ者は白い鳥になって大空に帰る、という言い伝えがあるからです。おそらくそれは、タイラー族の居住地が見渡すかぎりの平地で、小高い丘も切りたった崖もないために、高い場所に対して部族民の情念に生じた畏怖と憧憬のあらわれなのでしょう。
ジェルは樹海の奥に高い岩山があるという噂を頼りに、着のみ着のまま、飲まず食わず、幾日も歩きつづけました。そしてついに湖畔の岩山に
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